テロリストによる犯罪処罰のための新たな連邦犯罪の創設、
捜査権限の強化、外国人に対する入国管理体制の強化、
テロ行為などに従事する外国人の拘束、
国際マネーロンダリングの阻止に関する法律、規制の強化といったものが挙げられる。
愛国者法は、アメリカではテロ対策法制の中心的立法と一般的に認識されている。
9・11テロ事件後、新たなテロ対策を立案する必要があったブッシュ政権は更に行政機関が強力な権限を持つことができる内容の立法を速やかに設立することを望んでいた。
一方、ブッシュ政権の提示したテロ対策立法に対して連邦会議は「軍事力の権限付与」を認める両院共同決議(
AUMF決議)行い、9・11テロ事件に対処する政権を支持した。
しかし、政権が望んだ権限の保持に対して制約を設ける。
その理由としては、連邦議会は憲法によって保障される自由がテロ対策の管理によって自由が侵害されるということに対して危惧したからである。
このように疑義の内容を一部含んだ愛国者法だったのだが世論と連邦議会を巻き込んだ炭疽菌騒ぎにより議会で不十分な点は審議されることなく9・11テロ事件の1カ月後10月26日に成立された。
しかし、その一方で既存のテロ対策における主要な法律の改正を図ることを目的とした法律で、テロ対策に関する包括的立法とは言い難いと著者は述べている。
内容に関しては、国境の保全、諜報活動の改善など広範な事項に及んでいる。
だが、テロ対策強化を試みた愛国者法に対して様々な批判がある。例えば、先程上げたテロ対策を実施する機関における捜査権限の強化、外国人に対する入国管理体制と拘束に対して、憲法上、人権上の問題を指摘されている。捜査権限の強化では、
l 令状を通知せず捜査を行うことができるという規定に対して不合理な捜査を禁止する合衆国憲法修正4条に対する問題点が指摘されている。
l 通信利用状況を行政機関が閲覧できる適用範囲が広がったことで生じるプライバシーの侵害。
l 図書館の利用状況の開示による表現の自由の侵害。
l 法執行機関が、通信傍受を行う上で捜査令状発給要件を緩和させることで幅広い活動が行える一方、人権団体からはプライバシーの侵害の危惧が強く指摘された。
l 法執行機関の情報を諜報機関が共有することにたいして危惧が示された。
l テロ活動を支援する外国人について表現の自由の侵害、支援の範囲を指定することに関する問題が挙げられる。(支援の定義)
l 司法長官の権限についても拡大された反面、権限の濫用への歯止めは不十分な形でしか規定されていなかったこと。
l アルカイダとの繋がりを要する外国人に対して裁判を行う軍事裁判所という陪審、裁判官を軍人が務めるなど憲法上、法律上強い疑義が指摘された裁判所の設置。
軍事裁判所、外国人テロリスト拘束に関しては、連邦最高裁において3つの事件(ハムディ事件、パディラ事件、ラズル事件)が人権上問題として取り上げられた。
(1)愛国者法に関しては、これまで見てきた問題点から見られるように、憲法上の議論が幅広く行われてきた。まず注目されたのは、愛国者法の規定に対する下級審による違憲判断を示す判決例がみられたことだ。例えば、2004年1月23日にロサンゼルスの連邦地方裁判所、2004年9月29日にニューヨークの連邦地方裁判所は愛国者法の1部は、合衆国憲法に違反すると判断した。このようなケースは連邦の下級審でも余り多く見られないものの愛国者法と憲法の関連性を問う声も強くなることが予想される。
(2)愛国者法は、制定されていたときに連邦議会からその合憲性に疑問を抱いたことに対する包含するものとして時限条項を盛り込んでいる。なので、この愛国者法の中で時限条項としておかれている条項に対する取り扱いが問題になっている。これらの条項は、2005年12月31日に効力を失うと規定されていたので失効期日を控えていた当時、連邦議会と政権との間で時限条項の取り扱いが政治的問題となる。その後は、期日を再三延長したが、その後の両院の意見の調整に注目されるであろうと著者は述べている。
(3)グアンタナモ基地に設けられた軍事裁判所への合憲性に関する問題では、2004年11月8日にワシントンの連邦地方裁判所の判決が注目された。内容は、グアンタナモ基地に収容されたイエメン人に対する人身保護請求を一部認めると同時に軍事裁判所を中止させる命令を発行した。最終的に連邦訴訟裁判所によってこの判決は破棄されものの軍事裁判所の合憲性を巡る議論は決着しておらず現在もなお引き続いている。